【人生大成功】
こんにちは! kidoです。
今回は「家の光読書エッセイ賞」というコンクールに応募した過去の作品です。
結果は、もちろん落選しています。(涙)
このコンクールは読書をテーマにした作品を随時公募しています。
読書普及にとても良い活動をしてくれておりますね♪
興味のある方は応募してみるのも面白いのではないでしょうか?
↓↓↓
url:https://www.ienohikari-koubo.com/dokusyo-essay/
それでは、私の作品をご覧くださいませ♪
少しでも心動くことがあれば幸いです♪
人生大成功
「本を読みなさい」
そう頭ごなしに言う母の言葉に疑問を感じた。
「なぜ本を読まなきゃいけないの? 何か良いことあるの?」
「さあ、何でだろうね。読んでみたらわかるかもね……」
そう言われても、腕白な遊び盛りの子供だった私の心にはまったく響かなかったようだ。じっとして本を読むのは幼かった私には苦痛でしかなく、読書とは縁のない幼少期を過ごしていた。
そんな私が本を読むようになったのは、父親の死がきっかけだった。人間の生死について真剣に向き合うこととなったからだ。
生きるって何だろう?
それから自分の人生も真剣に考えるようになり、仕事はどうするか? どんな人生が幸せなのか? 気付くとそれは悩みに変わっていた。
自分の脳を懸命に働かせその答えを導きだそうとするが、情報量の少ない私の脳からはその答えが導き出されることはなかった。
そんな中、私は一冊の本を手に取った。それはある冒険家の作品であった。
その本を読んだ時、私は生き方のヒントを得た気がした。
一度人生を送ってみないと分からなかったことが、その作者の本を読むことで、その作者の人生が私の人生に加わった。そんな感覚になった。
その時私は思った。本には一生分の知恵がつまっている。一生かけないと理解できないことが、数時間または数日の読書で私にそれを教えてくれたのだ。
私はこれをきっかけに読書の素晴らしさに気付いた。そして、いつしか自分の中で読書に対する定義がうまれた。
『読書とはその作者の人生を頂くことである』
その言葉は幼い頃母に言われた読書に対する答えだった。
私はその答えを胸に秘めつつ、いつか母に伝えようと決めていた。そして、それを伝えたのは3年前の父の命日に母と墓参りに行った時だった。
父は私が17の時事故で亡くなった。結果として死別であるが、母と父の仲は私が物心着いた時にはすでに険悪であり、いつ離婚してもおかしくない状態であった。
そんな関係だったにも関わらず、父が亡くなってから母は墓参りをかかさない。命日、彼岸、盆、正月はもちろん、実家に帰る度にお墓に足を運ぶ。
お墓へ続く坂道の途中、僕は母に言った。
「読書はその作者の人生を頂くことやで」
母はその言葉に反応することなく、自分で昔書いた作品の話を始めた。
それは『人生大失敗』という題材のエッセイ作品。
私はその時初めて、母がそのようなことをしていたことを知った。
その作品の内容は、自分がこの家に嫁出来たことを後悔する内容のエッセイだった。
農家に嫁ぎ、家事手伝い、子育て、と自分の時間などなく、自分の人生というアイデンティティーを失いつつあった母がエッセイを書き応募したそうだ。
その作品は入選し、一つのエッセイ作品集の一部になった。その時の母の作品は、今も誰かに読まれ共感をえているのかもしれない。
「あんた、なんで私がこんな頻繁に墓参り行くかわかる? たしかに親父とは仲も悪かったし、結婚生活は確かに失敗やったかもしらん。そのエッセイに書いた内容も当時の私の生きた気持ちであることは確かや。でも、親父が死んで大切なものをいっぱい授かっていたことに気付いた。婆さんとの関係も上手く行くようになったり、私が外に出て仕事を持つようになったり、あんたらの成長もそうやし、いっぱい大切なものもらってん。親父は死をもって私にそれを教えてくれた。だから、せめてお墓の供養や、この家のことは、きっちりしようと決めてるねん」
母はそう言った。
確かに、親父の死をきっかけに母の人生は良い方向に変わって行った。
外に出て仕事をするようになり、もともと秘めていた世渡り上手な一面等の要素が開花したのか、仕事は順調でかなり上まで出世していた。
祖母との関係も親父の死をきっかけに変わって行った。
母は祖母を見捨てなかった。本来自分の親でないのだから、親父が死んで家を出て行ってもおかしくなかった。しかし、母は逆に我が子を失った祖母の気持ちに優しく寄り添った。
その結果、力を合わせて生きて行こうとする気持ちが二人の中で生まれていったのだろう。
また、昨年には初孫が生まれ、孫を手にとった母の幸せそうな顔は忘れることがでない。
それもこれも、あの大失敗だと思った家庭から生まれた幸せだった。
私はこの母の幸せは人生の試練から逃げずに、まっすぐ向かって生きた母の強さの賜物だと思う。
そして、家に戻り当時のエッセイ集を見せてくれた。それを読み終わった私に母は照れ臭そうに笑みを浮べ、「まあ、もう一回親父と結婚するか言われたら絶対しないけど」と笑った。
母は僕の出した本に対する答えなど分かっていた。
ようやく私がそのことに気付いたからこそ、母は自分の作品について語ったのかもしれない。
私は仏壇に向かって(父に向かって)手を合わせながら、今度は自分がこの今の母をエッセイに書くことを誓った。
母の大成功した人生を……
その他、読み物(作品)はこちらから
↓↓↓
コメント